
Acqua 水 〜その1〜
2006年 8月
水は人間の体の60%を占め、絶えず体内に取り込み続けなければなりません。水分は飲料水としてだけでなく食べ物にも含まれ、料理や食文化に密接に関係しています。今回は「おいしい水」、「おいしくない水」、味の違いはどこから生まれるかを見てみたいと思います。おいしさを決めるわかりやすい要素の一つとして水温があげられます。一般に飲み物をおいしく感じる適温は、体温マイナス25度だと言われ、だいたい10〜15度の範囲として考えればよいと思います。そして日ごろ感じることはありませんが、水は微量な味の成分を含んでいます。ですが本来の水は無味無臭です。雨水を調べてみても蒸留水に近く、ミネラル成分をほとんど含んでいません。しかし不純物をまったく含まない純水は、味の点からすると湯ざましと同じように味気がなくおいしく感じられません。水に味があるというのは、飲み水が純粋なH2Oではなく、鉱物分などを溶かし込んでいるからなのです。私達が普段口にしている水は、雨として地球上に降った後に、いろんな地質層や岩石層の狭い隙間に浸み込み、カルシウムやマグネシウムなどの様々なミネラル成分を溶かし込みます。天然ミネラル水の中には岩盤の鉱物、苔や藻などの微生物など実に500種以上の物質がほどよく溶け込んでいます。ミネラル分が多く含まれると水の味は硬く感じられ、少ないと軟らかく感じられます。水の硬さを硬度と呼び、ミネラルの主成分であるカルシウムとマグネシウムの量を測定したものです。この違いは水が非常に物質を溶かしやすい液体であることから来ています。ある1つの物資が溶けるとさらに溶解力を増し、他の物質をつぎつぎと溶かしていく性質があります。地球上のあらゆる場所にある水が、それぞれに性質も成分も異なった水になるのです。日本の地下水は地下にとどまっている期間が短く、地中のミネラル分の影響が少ないため軟水が多く、ヨーロッパなどの大陸の水は石灰岩が多い上に地下の滞留期間が長いために、ミネラルが溶けすぎてしまい硬水となってしまいます。1リットル中100mg以下が軟水、200mg以上が硬水とされます。硬い水は口に含むと引き締まった味がします。冷蔵庫で冷やせば、味のクリスタル感は一層強調され、よりおいしく感じると言われています。一方、軟らかい水は口の中で優しく広がります。これは水の味を決める大きな要素の一つになります。水一つとっても地域の特徴が現れます。次回はこの違いが、いかに料理と関わっているかを見たいと思います。
Acqua 水 〜その2〜
2005年 9月
水と料理の関わりは深く、水質の違いは飲み水のみならず食材や料理にも影響を与え、これは伝統的な郷土料理に良く表れています。その土地の料理には、その土地の水が基本と言われ、これは現地の水で育ったものを食材とし、現地の水で料理されるからです。郷土料理とはその土地に行かなければ、本来の美味しさが味わえないもので、長年の料理方法によって積み上げられた食文化が出来上がりました。水質により調理方法が変わり、ヨーロッパのような硬水の土地では水を使うよりも蒸したり、油で炒めたり、牛乳やワインを加えて煮ることが多くなり、日本のような軟水の土地では、水を使った煮物・汁物・ゆで物といった料理が多くなります。これは水に含まれるミネラル成分で産物が出来ていることが一つの鍵になっています。飲み物を例に出すと緑茶は日本の軟水の地域で生まれ、紅茶は欧州の硬水の地域で生まれました。緑茶は軟水ではまろやかですが、硬水では渋みが出てきます。紅茶は軟水では香りが薄く、硬水では香りがよく出ます。水の硬度においてはミネラルのバランスも重要になり、カルシウムが多いと香りが損なわれ、色も濁ってしまいます。コーヒーはカルシウム過多だと苦みが十分に出ず、少なくても苦みばかりが強く香りが損なわれてしまうのです。料理ではカルシウムは肉のたんぱく質としっかり結合して肉汁を閉じ込めることができ、パスタを硬水でゆでるとアルデンテに仕上がります。カルシウムがパスタのデンプン質と結合して強いコシを生みます。パスタをゆでる時に塩を入れるのは、味付けだけでなくカルシウムを補っているのです。この様に水は様々な食文化の違いを造ってきました。日本は良質な水が豊富なためあまり問題は有りませんが、ヨーロッパ諸国は水事情が悪いため、良い水のある貴重な水源は徹底的に保護しようと言う考えがあります。イタリアでは水道水はやかんや鍋が真っ白になるほど石灰成分が多く、直接飲めないため家庭やレストランでは、2種類の水を用意します。一つはガス入りの炭酸水。もう一つはガスなしの一般的なナチュラルミネラルウォーターです。水は決して無料で出てくることはありません。現在イタリアには約300種類のミネラルウォーターが存在し、一人当り平均130Lのミネラルウォーターを消費します。