
世界中でその国々の料理に使われている香辛料。今や香辛料なくして人間の食生活は成り立たず、また味気ないものになってしまいます。身近なものではコショウ、山椒、唐辛子など様々なものがありますが、今回はハーブに焦点を当て、どのように扱われどのような作用をもたらすかを見たいと思います。ハーブとは香りの強い葉や茎を持つ芳香植物の総称であり、料理や素材に甘くて快い香味をつけるものです。自然があり、人々の生活があれば、そこには必ず何種類かのハーブがあります。ハーブの生命は香りで、これは生育環境と時間で決まります。日当たりの良い、乾燥ぎみの、やせた土地で生育したハーブは、長い時間を掛けて香りをはぐくみます。香辛料の特色は芳香成分である揮発性の精油成分を含んでいることです。これは薬理や防腐などの特殊な効果を発揮します。日光に当てれば変化してしまい、時間が経つと共に香りも消失していくので摘みたてを使用するのが最適です。ハーブは環境に変化されやすく、同じ種類のハーブであったとしても精油成分は栽培場所が異なると、化学的に見てもその主成分の含有量などが変化します。同じ種子から育ててもヨーロッパと日本で栽培したものを比べると、香りが異なり、3世代経ると別物になると言います。新鮮なハーブはすがすがしい芳香と幾分甘い柑橘系の芳香を持つものが多いですが、乾燥品と比較すると青臭さを強く感じます。このため、使用量は香りの強さで決めるのがコツで、青臭さを消したいときは煮込むなどの加熱処理をします。料理の仕方を工夫すれば精油成分を効果的に利用することもでき、たとえばワインにはスパイスの精油成分の抽出を早める効果があります。エジプト、中国では古くから扱われ、日本でも薬草と共に万葉集に記されています。またギリシアでは昔からハーブを多く使っており、それは主に薬として利用され、世界の薬学の発祥の地ともいわれているほどです。人々の生活に密着し薬用や食用以外にも聖なるものとしても扱われていました。ディルはギリシアでも栽培されていますが、昔からこのハーブには不思議な力があり、魔女に対する武器として使われたり、エキゾチックな媚薬として使われたりしていました。パセリについても、古代ギリシア人は食品として利用せず、死のシンボルとして崇拝し、死者の墓にパセリをちりばめる風習がありました。ローズマリーは、頭脳を明晰にし、記憶力をよくすると信じられていたので、当時の学生たちは試験を受ける前には髪にローズマリーの花輪を編んで結んでいたとも言われます。今ではリラックス効果なども化学的に証明され、多くの人に利用され人気があります。人々は当時からハーブがもたらす効果を肌で感じていたのでしょう。
ハーブに比べコショウやシナモンなどのスパイスは保存が利き便利でどこの家庭にもありますが、かつては世界史の勢力図を左右するほどのものであり、今では想像もできないほどの高値で取引されていました。コロンブスの新大陸発見も、マゼランの世界一周航路発見も、スパイスを求めての旅の副産物にすぎず、今の豊かな食文化だけでなく、世界史の一部もスパイスが築き上げたものと言っても過言ではないでしょう。かつてイスラム国家が独占的な利益を上げたのもスパイス貿易によるもので、当時のスパイスは金一キロとコショウ一キロが同値で取引されたほどでした。丁子を例に取ると、原産地価格に対して、インドで30倍、ヨーロッパまで来ると、360倍になったそうです。世界史の中心となるヨーロッパではほとんど栽培されず、その主要産地のほとんどがアジアに集中していたからです。当時の貿易は往復で5年かかり海賊などがいたので大変だったでしょうが、成功するといかに多大な利益をもたらしたかがわかります。バグダッドの繁栄も、ヴェネツィアの発展もこのスパイスによるものでした。時には争いを起こし国を挙げてスパイスの生産地の独占をしていました。たかが食材の一つでしかないはずのスパイスが、どれほど社会に影響し、人々を魅了してきたかが伺えます。スパイスはヴァリエーションが豊富で、様々な効果を発揮します。まず芳香作用やうまみ作用、あるいは着色作用の効果、そして食欲増進効果や矯臭、脱臭効果などが得られます。辛味を含めた刺激性などの作用を持つものも多いです。強い辛味をもつスパイスでも成分はそれぞれ異なり、これを料理にうまく利用するにはコツが必要です。中でも唐辛子の辛さはかなり強烈で、口の中が焼け付くような辛味感に特徴がありますが、芳香はほとんど感じられません。この辛味成分は熱に対し安定しているので、加熱料理に向いています。そしてほぼ無臭のためどのような料理にも適合します。それに比べわさびも辛いですが、この辛味成分は酵素の働きによるもののため、加熱料理には不向きです。コショウやショウガは比較的熱に安定した辛味成分を持っていますが、それぞれ特有の芳香を持っています。そのまま使うだけでなくブレンドをすることにより、複雑味が増し香味がまろやかになることからカレーパウダーなどは何種類もの香辛料を使います。その国の気候や習慣によりそれぞれのスパイス文化があります。
イタリアは日本と違い最近まで多くの国に別れ独立国家となっていたため、文化や方言、料理にまだまだ地方色が豊かに残されています。イタリアの南部と北部では調理法、材料、香辛料の扱いがずいぶんと異なり、中部では南と北の要素が取り入れられています。スパイス類は南部が乾燥されたもの、そして北部はハーブが多くオイル類はエミリア=ロマーニャ州付近を境に南はオリーヴオイル、北はバターが用いられています。これは気候風土との関係もあり、降水量が少なく暑い南部ではハーブが育ちにくいという事情があり、気候条件の良い北部では、海からの潮風にあたって育った風味の一味違う香り高いおいしいハーブがあるのです。イタリアで頻繁に使われる香辛料はサルヴィア、ローズマリー、バジリコ、イタリアンパセリ、マッジョラムなどで、にんにくも香り付けと隠し味で利用されます。南部ではマッジョラムの代わりにオレガノを使い、にんにく、唐辛子を多用します。素材による香辛料の使い分けをしますが肉料理にはサルヴィア、ローズマリー、にんにくが欠かせず、パセリも香り付けに使われます。オレガノやマッジョラムは幅広く活躍する便利な香辛料で、特に鹿やウサギなどのジビエの煮込みには不可欠です。魚介類にはパセリやバジリコを使います。いずれも使い方は自在で、特に香りを重んじ、油に香りを移してすぐに取り出したり、煮込みで調味用に入れてから再度仕上げの香り付けをする二段階方式もあります。イタリア料理ではアンティパストからセコンドまで香辛料を使いますが、ピザやパスタ料理でも大いに活躍します。にんにくや唐辛子、コショウは幅広く使いますが、バジリコを使った料理も多いです。バジリコとモッツァレーラチーズ、そしてトマトを載せただけのピザも人気がありパスタだとバジリコのトマトソース、ジェノヴェーゼソースが有名です。大量のバジリコに松の実、にんにくを入れ、ペコリーノチーズ、オリーヴオイル、塩を加えてペースト状によくすりつぶします。そうすることによりバジリコのさわやかな香りが立ち、食欲がそそられます。日本料理に比べイタリア料理はしっかりとした味付けですが、これはお互いの香辛料の使い方による文化にも表れています。