樽について
Articolo della Botte

「ワインにまつわるお話」へ

樽について 1

2007年 3月

   木樽の歴史は長くヨーロッパで発明され、世界中の生活のあらゆる場所で活躍してきました。但し樽はワインの醸造や熟成をするために不可欠ですが、ワイン造りが始まると同時にあったわけではありませんでした。樽が発明される以前、ワインなどの液体はアンフォラ型等の陶製の容器に入れて保存していましたが、重く壊れやすいことから丈夫で軽く加工のしやすい木製の容器に変わっていきました。木製の容器は樽に限らず桶やバケツとして家庭用品に使われていました。当時と現在の樽の形にはそれほど差が無いようです。頑丈であったため貯蔵容器としてだけでなく輸送にも便利で、液体はもちろん金貨や野菜など様々な荷を輸送するために使われました。こうして多岐にわたり樽は人間の生活に密着していましたが、その中の重要な一つが酒造りです。数多くの酒類を造るのに利用されておりワイン、ビール、ブランデー、シェリー、ウイスキーなどがあります。日本でも酒や味噌作りの発酵や保存容器として樽が使われ、清酒の熟成は樽の杉材からの香りが重要で、特に吉野杉が良いとされています。そしてワインにはオークが樽に適材とされています。日本語訳では樫の木とされていますが、正しくは「なら」と考えられます。昔は様々な樹木を使い樽が作られていましたが、長い経験から現在はオークに落ち着きました。オークがワイン用の樽に使用される理由はタンニンの含量が多く微生物等に強いこと、そして乾燥に強く液体を漏らしにくいためワインの保存熟成に適していることが挙げられます。またオークから抽出される成分はヴァニラ等の好ましい香りやタンニンなどワインに複雑味を与え味わいに影響をもたらします。またオーク樽の最大の特徴は木の隙間から酸素を取り込むことです。適度な酸化は色素を安定させ、タンニンの苦みや渋みを和らげワインとしてのバランスを調整することができます。これを熟成といいます。力強いワインほど、程よい酸化熟成をさせなければ渋くて飲みにくいワインになるため、ワインによっては法律で3年以上木樽での熟成を義務付けているものもあります。

樽について 2

2007年 6月

   樽はアルコール発酵、熟成共に利用することが出来、互いに異なった特徴をワインに与えます。樽内での発酵は非常に還元的な環境となり、樽熟成とは異なったフレーバーの抽出が可能になります。樽貯蔵ではフェノール類やヴァニリンがより多く抽出されることが知られています。オークのタンニンはブドウのタンニンとは性質が異なり、また200種類以上の化学物質が抽出されることが知られており、その中にはアロマやフレーバーの要素も解明されています。主な産地はフランスやアメリカ、そして旧ユーゴスラヴィアなどの東ヨーロッパやロシアがあり、生産地や使われるオークの品種によってワインの個性が変わります。オークの他には状況によってクリやニセアカシアなどの木材が樽に使われます。クリはオークより安価ですが、多孔質のため保存におけるロスがオークの2倍から3倍ほどになります。ニセアカシアは非常に硬く気孔が少ないため保存ロスが少なく輸送に向いていますが、酸化熟成には適していません。またワインの味わいに影響を与えるのは樽の材質のみでなく大きさも重要になります。大きさは通常約200リットルの小樽からバローロ等の長期熟成用に使われる大樽6000リットルまで様々です。またヴィンサントには非常に小さな50リットルの樽を使用し、ワイナリーによっては100年以上使用している所もあります。変化の差は空気接触の表面積の違いによって起こります。小樽からは樽材の成分が効率よく抽出されワインによく染み込み、濃い紫がかった色調になるのに比べ、大樽はまろやかな酸化熟成により褐色がかった色合いのマイルドな味わいになります。ただし前者は短期間でほとんどの成分が抽出されてしまうため長くは使えませんが、後者は何十年の単位で使い続けます。以前は樽というと木製の樽のみでしたが、技術の発達とともにセメント製や金属製のタンクが生まれました。ステンレスタンクはコンピューター制御が可能なため酸化や温度管理がしやすく、ブドウ本来が持つ特徴を活かしたワインを造るのに向いています。また使い終わった後洗浄が楽で何度も繰り返し使えることから人気があり、多くの生産者が設備投資する際に今まで使っていた木樽からこのタンクに代えていきました。今では多くの生産者が使っています。またステンレスタンクは醸造する地域による差も縮めました。例えば以前温暖な地域で造られていたシチリア島の白ワインは酸化が進みやすく濃い色調のワインが造られていましたが、現在ではステンレスタンクを用いたフレッシュで綺麗なワインに造られています。セメントタンクは一時期廃れ見ることがなくなっていました。洗浄が大変で、大きく場所をとるからです。ですが温度管理が少なくステンレスタンクよりも優れていると考える生産者が増え、現在人気を盛り返しています。

バリック

2007年 8月

   樽には様々なタイプがありますが、ここしばらく最も注目を集めているのはバリック樽です。元来はボルドー地方で伝統的に使用されていましたが、ワインにバニラ等の特徴的な香りを付加することができるため、アメリカやオーストラリア等の新世界で好んで使用されるようになりました。白ワイン、赤ワイン共に使用されます。その流れはヨーロッパにも逆輸入され、イタリアでもスーパータスカンを始め多くのワインで使用されています。今やバリックなくしては高級ワインの存在が成り立たないほどに影響力を持っています。バリック樽は本来225リットル製(フルボトル300本分)と定められていますが、消費者の間ではオーク製の小樽を総称してバリックと呼ぶ傾向があります。原料となるオークはホワイトオークと呼ばれる約20種類になります。世界各地に生育しているため、生産地は様々ですが伝統的なフランスと新世界のアメリカ産が代表的なものとなります。他には安価なことでロシアや東ヨーロッパ産も注目を集めています。比べるとフランスではアリエや主にコニャックに使用されるリムーザン、高級オークであるトロンセなど地域による個性を表現することが出来ますが、全体的にスパイシーになる傾向があります。アメリカ産は香りが強く、甘いニュアンスをワインに付加します。これは材質の木目の粗さと、樹に含まれるヴァニリンやフェノールなどのフレーバーに関わる化学物質の量の違いによるものです。また樽材の乾燥方法や製造におけるトーストの焼き具合、ワイン熟成の使用期間によっても違いが生まれます。生産者によってはワインに複雑味をもたせるため発酵、熟成共にバリックを使う方法、また生産地の違う様々な樽にワインを寝かせるなど様々な工夫を凝らします。このようにバリックはワインに様々な個性を与え、多くの高級ワインを生み出していることから良い事尽くしにも見えますが、問題点もあります。過度な香りの付与はワインの個性を殺してしまうため、ワインのポテンシャルや特徴を活かしたバランスの良い使い方がされなければなりません。確かにバニラ香は心地よい香りですが、強すぎると樹の香りのする飲み物を飲んでいるほどになります。また個性を出すために導入したもののどれも似たようなタイプになってしまいます。バリックのブームも落ち着いてきましたが、以前はイタリアにもこうしたワインが市場に多く出回っていました。生産者もまだ使い方に慣れていなかったことが考えられます。もう一つの問題点はワインの単価が上がることです。バリックは長年の使用に耐える大樽に比べると使い捨てになるからです。樹の成分は新樽と呼ばれる3年目までは効率よく抽出されますが、それ以降はほとんど期待できなくなり古樽として、ブランデーやバルサミコの会社に売却してしまいます。こうして生産者は毎年新たなバリックを必要とし、世界中で供給が需要に追いつかないようになっています。バリックの金額は生産地によって異なり一樽あたり約450〜700ユーロ、売却金額は約50ユーロです。バリックは高価なため生産者によっては、ただ香りをつけるためだけならばオークチップを代替品として使用しています。オークチップは樽を製造するときにでた切りくずで、様々なサイズやトーストレベルの商品が用意されています。ティーバッグ方式で、袋に入れてタンクに投入し、オークフレーバーが付き次第で袋を取り出します。元々は新世界で安価なワインに使われていましたが、2006年よりヨーロッパにおいても解禁されました。イタリアでは賛否両論ですが、フランスではオークチップによるフレーバーの添加は消費者に対してのワインの価値を下げることになるとしてAOCワインに使用を認めない法律を作りました。この様にバリックやオークフレーバーに対しての使い方や考え方も、これからのワインの世界を大きく左右していく点となります。